Genbaku Dome
Introduction
原爆ドームは広島県広島市に位置する遺構である。1915年に広島県物産陳列館として創建された後、1945年、人類史上初となる戦術核兵器による実戦攻撃を受け、大規模に損壊した。そうした普遍的意義を有する歴史的な出来事に由来する損壊状態をとどめていることの価値により、1995年に国指定史跡となり、1996年に世界文化遺産に登録された。例外的に、一つの基準のみでの登録であったことはよく知られている。こうした世界遺産登録が、奈良文書採択直後に実現したことは、約30年前の文化遺産をめぐる議論の深化を象徴する出来事であったと言えよう。今では日本を代表する文化遺産の一つであるが、戦後は解体か否かの議論が長らく繰り広げられた。その歴史的価値が認識され、保存の決議がなされるまでには、およそ20年に及ぶ時間を要したのである。また、損壊状態をとどめたままでの保全方法の検討にも、保存方針がだされた当初から、多くの時間と労力とが費やされている。原爆ドームは、こうした文化遺産化に至る経緯や保全の取組も含め、文化遺産の価値とその多様性について、多くの示唆を与える。